源泉徴収の意外な落とし穴

そもそも源泉徴収って何?

法人が役員・従業員に対して給与支給を行った場合、支給した法人は原則として所得税を源泉徴収する義務を負っており、徴収した所得税は原則として支給日の翌月10日までに所轄税務署へ納付する必要があります(所法第6条、同法第183条第1項※)。
※法律条文は末尾に記載しておりますので、必要に応じてご参照ください。

これだけ聞くとそれほど難しい内容ではないように思えますが、実は意外な落とし穴があったりします。

そこで、今回は報酬等の支給対象者の法令上の地位が変化した場合の源泉徴収について、押さえておくべきポイントを事例を交えてご紹介したいと思います。

押さえておくべきポイント

各論に入る前に押さえておくべきポイントを最初にご紹介します。
ここでのポイントを頭の片隅に置きながらご覧頂けると、ご覧頂いた後に「なるほど!」と思って頂けるものと思います。

①担当業務が変わらない場合でも報酬を受取る者の法令上の地位が変化していないか
②万が一源泉徴収もれが分かった場合には他に徴収もれがないか速やかに確認する
③②の確認後は速やかに支給対象者から所得税相当額を徴収し納付する

以上、3点が重要なポイントとなります。
詳細は順を追ってご説明します。

取締役に対する報酬の法令上の取扱い

まず、会社法上の取扱いを最初にご説明します。
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益は、定款または株主総会において支給金額等一定の事項を決議することとされています(会社法第361条第1項)。

他方、法人税法上は役員報酬(役員給与※)については個別に規定されていないため、原則として会社法の規定を準用することになりますが、役員給与には債務免除等の経済的な利益も含む旨が法令上明記されておりますので(法法第34条第4項)、役員給与には経済的な利益を含む全ての利益が報酬に含まれることになります。
※「役員報酬」と「役員給与」で似た言葉が出てきますが、法律上使用される言葉が異なるだけで基本的に意味は同じですので以降は「役員給与」に統一させて頂きます。

次に、法人税法上、役員に対して支給する給与については「一定の給与」を除き、原則として損金の額に算入しない(法人税の計算上は費用としてカウントしない)とされています(法法第34条第1項)。

この「一定の給与」とは、例えば、その支給時期が1ヶ月以下の一定の期間ごとである給与で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(以下、「定期同額給与」)がこれに該当します。
つまり、支給金額が毎月同額であるような場合には、例外的に法人の損金(費用)の額に入れていい、ということになります。

もちろん、所定の要件を満たせば、給与支給額を変更しても損金になる場合もありますし、定期同額給与以外でも損金算入可能な役員給与はありますが、今回ご紹介する事例には直接関連しませんので詳細は割愛させて頂きます。

なお、こちらも今回は直接関連しませんので詳細は割愛させて頂きますが、気を付けて頂きたいポイントとして、法人税法上は法令上の役員のみではなく、法人の実質的な経営者などいわゆる「みなし役員」に対して支給する給与についても役員給与の対象に含めておりますので、ご興味のある方は以下の国税庁のホームページをご覧ください。
国税庁:No.5200 役員の範囲

源泉所得税の特例納期の承認申請書

法人が役員または従業員から徴収した所得税は前述の通り、支給日の翌月10日までに所轄税務署へ納付することが原則的な取扱いとなりますが、 給与等の支給人員が常時10名未満の小規模事業者であれば、源泉所得税の納付を年2回とすることが出来る特例制度(所法第206条)があります。

この特例制度の適用が可能であれば、毎月の納付の手間を削減することに加えて、前述の源泉所得税の納付もれ等の税務リスクも低減することが可能となりますので、承認申請書を提出していない場合には提出することをお勧めします。

ただ、気を付けなければいけない点として、申請書を提出すればすぐに源泉徴収が不要になるかというと、そうではありません。早くても申請書を提出した翌月に支給する給与等から適用となりますので、申請書を提出した月に給与等の支払がある場合には、通常通りの源泉徴収・納付が必要になりますのでこの点はご注意ください。

納付スケジュールなど特例制度の詳細なご説明は割愛しますが、ご興味がある方は以下の国税庁のホームページをご覧ください。
国税庁:No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例

事例

X1年9月1日まで単独株主Xが代表取締役を務めるA社の株式を所有していました。XはX1年9月1日に所有するA社株式の全部をY(個人※Xの同族関係者ではなく、A社の使用人でもない)に対して売買により譲渡し、同日付でXは取締役を辞任するとともに、Yが新たにA社の代表取締役に就任(月額役員給与:30万円)することになりました。
Yは、従前よりA社から有償(月額業務報酬:30万円、月末に報酬を受領※源泉徴収は不要な報酬)で業務委託を受け、独立した地位においてA社に関する業務を行っていました。
YはA社の単独株主となり、代表取締役となった後も従前通りの業務を行っていました。
なお、A社は従前より小規模事業者として源泉所得税の特例納期の承認を受けている。

この時、A社がYに支払う報酬の源泉徴収はいつから必要になるでしょうか?

(1)報酬の性質

源泉徴収がいつから必要になるかを確認する前に、A社がYに支払っている報酬の性質がどのように変わっていったかを見ていく必要があります。
まず、X1年8月31日まで(取締役就任前)にA社がYに支払った報酬は、業務委託に関する報酬となりますので給与等には該当しません。
次に、YはX1年9月1日付で取締役に就任しておりますので、同日以後にA社から支給を受ける報酬は、原則として役員給与として取扱う必要があります。

このように、Yが行う業務が取締役就任前後で変化していなくても、Yの法令上の地位(取締役、第三者かなど)が変化したことにより、YがA社から受取る報酬の性質が変化していると考えることが出来ます。
つまり、従前は単なる業務受託者(第三者)としてA社の業務を行っていただけで、A社の対外的な責任を負うことはありませんでしたが、取締役就任後は対外的にも(会社の)責任を負うこととなりますので、業務委託の対価ではなく会社の職務執行の対価として報酬を受取ることになります。

なお、本来源泉徴収が必要な所得税相当額を徴収しない場合には、経済的な利益として当然に「給与」に含まれることになりますのでご注意ください。

(2)源泉徴収の時期

(1)でご説明した通り、X1年9月1日以後に支払う報酬は原則として役員給与の範囲に含まれますので、X1年9月1日以後Yに支給する役員給与から源泉所得税の徴収をする必要があり、X1年10月10日までにX1年9月分の源泉所得税を所轄の税務署へ納付することになるのが原則です。

ただ、本事例の場合には、源泉所得税の特例納期の承認を受けておりますので、X1年9月1日からX1年12月31日までの間に支給した役員給与の源泉所得税をまとめて翌年1月20日までに納付を行えば、法令上問題なく後述する不納付加算税も課されることはありません。

なお、前述の通り、特例納期の承認を受けていない場合には、取締役就任後に支給した報酬から源泉徴収が必要になりますので、従来通りのつもりで報酬を支払っていて、うっかり源泉徴収をしていない場合には、速やかに源泉徴収し徴収税額を所轄税務署へ納付することになりますのでご注意ください。

(3)不納付加算税

忘れてはいけないのが、源泉所得税の徴収・納付もれがあった場合には、原則として不納付加算税(罰金の税金版)が課されることになる点です。
この不納付加算税は、原則として納付額(本税)の10%相当額とされていますので、例えば、税務調査があり、納付もれが10万円と指摘された場合、
10万円 × 10% = 1万円
が不納付加算税となります。

ただし、源泉所得税の納付もれが分かった場合に、全てに不納付加算税が課されるかというと、そういうわけではありません。
どのような場合に不納付加算税が免除されるかというと、主に以下のケースが該当します。

①不納付加算税が5千円未満の場合(国通法第119条第4項)
②法定納期限の前月末(例えば、10月10日期限の場合には9月末)から起算して過去1年以内(1年前の10月1日から1年以内)に源泉所得税の期限後納付をしておらず、かつ、法定納期限(10月10日)から1ヶ月以内(11月10日まで)に源泉所得税を自主的に納付している場合(国通法第67条第3項、国通令第27条の2第2項)
などの場合には、不納付加算税は課されませんので、万が一納付もれを発見した場合であっても焦らずに対応することをお勧めします。
なお、法定納期限とは、本来源泉所得税を納めるべき期日をいいます。

最後に

いかがでしたか?
事例としては少し珍しい部類に入る気もしますが、
こんなこともあるのか!?
と思ったところをまとめてみました。

今回の事例は、知人と話していて、
知人:「こんなことになったんだ~」
わたし:「あ、そうなんすね~、役員に就任するんだったら源泉しなくちゃですけど大丈夫ですか~?」
知人:「・・・源泉?」
わたし:「あれ?もしかして源泉してません?」
という軽い世間話しがきっかけでした。
後々お話しを伺っていくうちに、前述の特例納期の承認を受けておりましたので特に問題はありませんでしたが、たかが紙っぺら1枚、されど紙っぺら1枚ということを痛感した事例でしたので今回ご紹介させて頂きました。

源泉徴収は役員給与の周辺論点の1つですが、これに限らず、役員給与をめぐっては裁判等まで発展することも少なくなく、中小・零細企業の税務実務においては、最も重要な論点の1つと考えています。

また、今回の源泉徴収以外にも役員給与周りについては、法人所有の車両を私的に利用していると認定された、交際費として処理したものを臨時の役員賞与と認定された、退任した役員に支払った退職金の一部が損金として認められなかった、などなど枚挙に暇がありません。

上記の詳細は次回以降で機会があれば取り上げたいと考えていますので今回は割愛しますが、役員給与の設計などは税務上の影響が大きいので顧問税理士などの専門家に事前に相談することをお勧めします。

なお、ご紹介する会計処理や税務処理をはじめとした法令・基準等の解釈については、ご紹介する事例を前提とした筆者の個人的な見解であり、ご紹介した会計処理・税務処理の適用にあたっては閲覧者ご自身のご判断にてお願いいたします。実際の取引の適用にあたっての責任は負い兼ねますので、必ず会計監査人・顧問税理士へのご確認を推奨いたします。

また、当ホームページの情報は閲覧者の税務処理を拘束するものではなく、将来の会計基準等や税制改正などにより適用関係(結論)が変更される可能性がありますので、あくまでも事例をご紹介した時点の取扱いである点は何卒ご留意ください。

略称:

法人税法:法法
法人税法施行令:法令
所得税法:所法
国税通則法:国通法
国税通則法施行令:国通令

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