法人成りの8割を詰め込んでみた

その1

そもそも法人成りって?

個人事業を開始して、ある程度経営が安定してきた際に法人成り(法人化)を検討すべきというお話しをよく聞きますが、「法人成り」とはそもそもどういったものでしょうか。

明確な法令上の定義などはありませんが、一般的に法人成りとは、個人事業主として行っていた事業を新たに設立する会社へ移転するとともに、個人事業を廃業し、移転した事業を法人が運営していくことを指すとされています。
一般的に法人成り前は、個人事業主(事業所得者)として確定申告を行いますが、法人成り後は、設立した法人の役員に就任し、法人から役員報酬を受取り(給与所得者)、法人は法人で別途確定申告が必要になります。

・会社を作った方が税金が低くなるって聞いたけどホント?
・法人成りをすると消費税の免税期間が延びるって聞いたけどホント?
・社会保険の方がいいって聞いたけどホント?

などなどネット記事を見てみると、信用できるものから怪しいものまで様々な記事があふれています。

また、法人成りを検討する際には単に税金のことだけを考えればいいわけではなく、社会保険の加入や会社の設立費用、取引先との契約者変更、許認可が必要な業種は許認可の引継ぎ、既存の借入金の返済要否、決算日をいつにするか、なども考えなければならなく、広範な影響を及ぼすことになります。

そこで、今回から2回にわたって、法人成りを検討する際に押さえておくべきポイントをご紹介します。
その1では、主に法人成りに必要とされる手続や税金などの計算がどのように行われているか中心にご説明し、その2では、前提を設けて法人成りを行った場合の具体的な検討を行っていきたいと考えています。

なお、今回から2回にわたって特定の事例を取り上げるものではありませんが、最終的にはある程度の前提を設けて、個人事業主が法人成りを行った場合にどのような影響があるのかを定量的に比較し、法人成りをするタイミングはいつが妥当なのかを見ていく予定です。

いよいよ本年も確定申告の時期が迫ってまいりましたので、本格的に法人成りを検討されている方は是非ご覧頂ければと思います。

押さえておくべきポイント

①法人成りのスケジュールを事前にしっかりと確認する(一番重要
②定款の作成や登記申請など会社設立に必要な手続を確認する(法務面の手続)
③税務上提出する届出書や各種承認申請書の提出期限を確認する(税務面の手続)
④社会保険の加入手続や労働保険の加入に必要な手続を確認する(労務面の手続)
⑤役員報酬をいくらに設定するか

以上、5点が押さえておくべきポイントとなります。
詳細は順を追ってご説明します。

法人成りに際して必要な手続

法人を設立し、個人事業を移転する場合には、事業(営業)譲渡の形式を採ることが一般的だと思います。

一般的な手続は以下の通りですが、提出書類の名称や提出期限などの詳細を書いていくと、結構なボリュームになりますので、細かくは書きませんが、いずれも提出先や提出期限など法令上の規制がありますので、法人成りの際には十分にご注意ください。

<法務>
定款の作成(決算日はこのタイミングで決定することになります)
設立登記の申請(原則として登記申請日が会社設立の日になります)
事業(営業)譲渡契約の締結
役員報酬の決定
その他許認可等の引継ぎ等

<税務>
個人事業の廃業届
青色申告の取りやめ届出書(該当あれば)
法人設立届出書
給与支払事務所等の開設届
その他各種税務上の届出書・申請書等の提出

<労務>
管轄の年金事務所に(社会保険の)新規適用届を提出(提出期限は原則として設立から5日以内なので要注意)
管轄の労働基準監督署・公共職業安定所に(労働保険の)必要書類を提出(該当あれば)

これだけ見ると、「おや?少し大変そうだけど頑張ればいけそうかな?」と思ってしまいそうですが、登記申請にあたり必要な書類を揃えるのに時間がかかったり、税務上の届出書・申請書の提出期限に間に合わなかったりする可能性がありますので、法人成り前後のスケジュールは事前にしっかりと確認しておくことをお勧めします。

法人成りの検討をする前に

(1)税金に関する基礎知識

法人成りの比較を見ていく前に、所得税や法人税を計算する上での基本的な流れを簡単にご説明します。

<個人事業主>※青色申告の承認を受けている場合
 ①青色申告控除事業所得:収入金額-必要経費
 ②青色申告控除事業所得:①-青色申告特別控除額(10万円、55万円、65万円のいずれか)
 ③課税所得金額:②-各種所得控除額合計(社会保険料や基礎控除額などの合計)
 ④所得税額:課税所得金額 × 課税所得金額に応じた所得税率( 参考:国税庁 所得税の税率
 ⑤納付税額:④-各種税額控除額合計(住宅ローン控除など)
 ⑥法定実効税率:( 所得税率 + 住民税率 + 事業税率 ) ÷ ( 1 + 事業税率 )
 ※税率や基礎控除額などの詳細は異なりますが、個人住民税や個人事業税の計算も基本的には同じ計算方法です。

<法人>
 ①課税所得金額:収益-費用(役員報酬・会社負担の社会保険料等を含む)
 ②法人税額:課税所得金額 × 法人税率(課税所得金額800万円までは15%、800万円超は23.2%)
 ③法人住民税額:② × 法人住民税率(参考:法人の県民税 千葉県
 ④法定実効税率:(法人税率 + ( 法人税率 × 住民税率 ) + 事業税率 ) ÷ ( 1 + 事業税率 )
 ※税率などの詳細は異なりますが、法人事業税の計算は基本的に法人税額の計算と同じ計算方法です。

ここで、法定実効税率の内容について簡単にご説明させて頂くと、「課税所得に応じて発生する税金の負担割合」を示した比率となります。
例えば、課税所得金額が500万円、法定実効税率が35%とした場合、課税所得金額500 × 35% = 175万円となりますので、この場合の税負担額は175万円となります。
ちなみに、法定実効税率の計算式のうち、分子のことを「表面税率」と呼びます。また、法定実効税率の分母に事業税の税率が計算式に組み込まれている理由は、事業税は法人税や住民税と異なり、課税所得を計算する際の費用(課税所得を減らす効果がある)にすることが出来るためです。
そのため、表面税率を使用する場合は、あくまで単年度(その年度のみ)の税負担額が計算され、法定実効税率を使用する場合は、事業税が費用としてカウントされることを見込んだ場合の税負担額が計算されることになります。
なお、前述の法定実効税率の計算にあたっては、所得税率には復興特別所得税率を、法人税率には地方法人税率を、法人事業税には特別法人事業税率を含んだ税率で計算することになりますので、ご自身で計算する場合にはご注意ください。

(2)役員報酬に関する基礎知識

冒頭に申し上げた通り、法人成りを行った場合、従来行っていた事業は法人へ移転し、個人事業主は新たに設立する法人(会社)の代表取締役(役員)に就任することになるのが基本的な流れです。
そのため、法人成りにより収入源が法人へ移転してしまいますので、法人成り後は法人から報酬という形で給与を受取ることになります。この報酬のことを「役員報酬」といいます。
個人事業主の時は自身に対する報酬は経費に出来ませんでしたが、役員報酬は法令上の要件を満たしていれば法人税を計算する上で経費とすることが出来ますので、この部分が個人事業主(所得税)と最も異なる部分です。
ただし、役員報酬を経費にするためには、原則として毎月同額の役員報酬を支給する必要があるなど、所定の要件を満たす必要があります。月によって支給額をコロコロ変えてしまうと経費にならない部分が出て来てしまいますので、役員報酬の支給額は慎重に決定する必要がありますので、この点は十分にご注意ください。

(3)社会保険料に関する基礎知識

社会保険料は大きく分けて会社負担分と個人負担分の2つに分かれており、内訳は以下の通りです。

<会社負担分>
①健康保険料
②厚生年金保険料
③子ども・子育て拠出金(会社負担分のみ)

<個人負担分>
①健康保険料
②厚生年金保険料

<社会保険料の計算>
具体的な計算方法は、標準月額報酬に基づき決定された保険料額表( 参考:全国健康保険協会保険料率 )に記載されている保険料を負担することになりますので、40歳未満の方で月額役員報酬を25万円に設定した場合には、原則として報酬月額25万円以上~27万円未満の標準報酬月額26万円を基準に保険料が決定されます。具体的には以下のように計算されることになります。

<計算例①>
 ①健康保険料:12,727円
 ②厚生年金保険料:23,790円
 ③子ども・子育て拠出金:26万円 × 0.36% = 936円
 ④① + ② + ③ = 37,453円←会社負担分
 ⑤健康保険料:12,727円
 ⑥厚生年金保険料:23,790円
 ⑦④ + ⑤ = 36,517円←個人負担分
 納付保険料合計額:④ + ⑦ = 73,970円

とはいえ、「そんな面倒な計算やってられるか!」、「ざっくりでもいいからもっと簡単に計算できないのか?」、といった声が聞こえてきそうですので、見積りによる計算方法もご紹介します。

前述の保険料の料額表を見てみると一番上の方に何やらパーセント表示の数値があると思います。これを使用してざっくり影響額を計算することが可能となります。

<保険料率>
 ①健康保険料率:9.79%
 ②厚生年金保険料率:18.3%
 ③子ども・子育て拠出金料率:0.36%(これは保険料額表の末尾に記載があります)
 ④会社負担分の料率:{ ( ① + ② ) ÷ 2 + 0.36% = 14.405%
 ⑤個人負担分の料率:( ① + ② ) ÷ 2 = 14.045%
 ⑥保険料率合計:④ + ⑤ = 28.45%

これを使用して計算してみると、以下のにようになります。

<計算例②>
 ①月額役員報酬25万円
 ②会社負担分の保険料率合計14.405%
 ③① × ② ≒ 36,013円←会社負担分
 ④個人負担分の保険料率合計14.045%
 ⑤① × ④ ≒ 35,113円←個人負担分
 ⑥③ + ⑤ ≒ 71,126円

いかがでしょうか?
見積計算なので、もちろんドンピシャにはなりませんが、両者の差額は総額でも2,844 ( = ①73,970円-②71,126円 ) しか生じませんので、目を凝らしながら料額表を確認して計算するよりもずっと簡単に計算することが出来ます。
ただし、ご注意頂きたい点として、見積計算はあくまで「見積り」ですので、実際に納付する社会保険料の金額とすることは出来ません。今回のように法人成りの検討や事業計画書を作成する場合など内部で使用する場合に限られていますので、この点は十分にご注意ください。

最後に

いかがでしたか?
今回は法人成りに必要な手続や税金・社会保険料の仕組みを中心に見てきましたので、税金等の知識をある程度お持ちの方は少し退屈だったかも知れません。
次回は、前述の知識を利用して、法人成りを行った場合にどの程度の影響があるのかを前提を設けて分析していく予定です。
結論を先に申し上げておくと、「継続的に課税所得金額が330万円以上見込める年度で法人成り」をする、という結論になりました。
また、法人成りを検討する上で最も重要なことは、「法人成りをすることが総合的に有利になっているか?」、という視点です。
この視点が抜けていると、思わぬ落とし穴にハマってしまいますので、法人成りを検討する際は十分にご注意ください。

とはいえ、冒頭に申し上げた通り、本年も確定申告時期が迫ってまいりましたので、まずは目の前の確定申告を完了させることをまずは優先的に進めてください。

なお、ご紹介する会計処理や税務処理をはじめとした法令・基準等の解釈については、ご紹介する事例を前提とした筆者の個人的な見解であり、ご紹介した会計処理・税務処理の適用にあたっては閲覧者ご自身のご判断にてお願いいたします。実際の取引の適用にあたっての責任は負い兼ねますので、必ず会計監査人・顧問税理士へのご確認を推奨いたします。

また、当ホームページの情報は閲覧者の税務処理を拘束するものではなく、将来の会計基準等や税制改正などにより適用関係(結論)が変更される可能性がありますので、あくまでも事例をご紹介した時点の取扱いである点は何卒ご留意ください。

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