役員賞与支給時の注意点

役員賞与と事前確定届出給与

役員賞与とは、一般に臨時に支給する役員報酬を指しますが、会社法上の明確な定義はなく、あくまで職務執行の対価として、役員が会社から受ける財産上の利益に含まれることになります(会社法361①柱書)。
「賞与」の意義は、以下の所得税基本通達に明記されておりますので、気になる方はご参照ください。
国税庁:所得税基本通達(183-1の2)

他方、法人税法上は、役員賞与という表現ではなく、原則として「その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの」といった表現をしており、この要件を満たす役員給与を「事前確定届出給与」として課税所得の計算上、損金算入が認められています(法法34①二)。

文面だけを追っていくと、「事前に届出を行っていれば損金に算入される」という盛大な勘違いを引き起こし兼ねませんので、前回も申し上げましたが、役員報酬の支給にあたっては、十分な検討を推奨します。決してその場の思い付きで行ってはいけない最重要論点です。

そこで、今回はこの役員賞与と事前確定届出給与の関係と実務上の注意点について、押さえておくべきポイントを事例を交えてご紹介させて頂きたいと思います。

押さえておくべきポイント

各論に入る前に押さえておくべきポイントを最初にご紹介します。
ここでのポイントを頭の片隅に置きながらご覧頂けると、ご覧頂いた後に「なるほど!」と思って頂けるものと思います。

①支給を検討する役員賞与が職務執行期間に対応した事前確定届出給与か
②事前に届け出た内容通りに支給されているか
③役員給与の総額が不相当に高額となっていないか

以上、3点が重要なポイントとなります。
詳細は順を追ってご説明します。

事前確定届出給与(≒損金算入可能な役員賞与)の取扱い

基本的な内容は、冒頭に申し上げた通りですが、もう少し踏み込んでご説明していきたいと思います。

なお、厳密には金銭以外の株式や新株予約権の交付も対象に含まれますが、内容が複雑になってしまいますので、今回は金銭支給に絞ってご説明させて頂きます。

事前確定届出給与とは、原則として「その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの」に該当する役員給与とされていますが、この要件を満たすためには、原則として、役員賞与の支給を決定した株主総会決議等の日から1ヶ月を経過する日までに、財務省令で定める事項(決議日(=支給決定日)、支給対象者、支給額(金銭交付の場合)、支給時期など)を記載した届出書を所轄税務署へ提出する必要があります。所轄税務署へ提出する届出書の具体的な内容を確認されたい方は以下をご参照ください。
国税庁:[手続名] 事前確定届出給与に関する届出

さらに、法令上は要求されておりませんが、事前に届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合には事前確定届出給与には該当しないものと解されており、その場合、原則として支給額の全額が損金不算入となります(法基通9-2-14)。
そのため、単に事前に届け出ていればよい、ということではなく、届出通りの支給となっていない場合も原則として損金に算入されないこととなりますので、この点は十分に注意して頂きたい点の1つです。

上記をまとめた、事前確定届出給与の実務上の流れは以下の通りです。
 ①株主総会等の決議により支給対象者、支給対象物(金銭or現物)、支給額、支給時期等を決定する。
 ②①で決定した内容について、所定の期限までに所轄税務署に対して届出を行う。
 ③②で届出を行った内容通りに実際に支給を行う。

以上が実務上の流れですが、ここで1つ重要な点が抜けています。それは、「職務執行期間」という概念です。

職務執行期間とは?

少し難しい内容になりますが、会社と役員との関係は委任※に関する規定に従うとされており(会社法330、民法643他)、株主総会にて選任された役員は、原則として定款に記載されている任期に応じて、会社の職務を執行することになります。この会社の職務を執行(=委任)する期間を「職務執行期間」といいます。
※委任とは、会社から委託を受けて法律行為(≒契約等)を行うことをいいます。

職務執行期間は、役員としての任期における期間を1年ごとに区切った期間が想定されており、いわゆる事業年度とは異なる概念とされています。つまり、原則として、定時株主総会の開催日から翌年の定時株主総会の開催日までの期間の1年間が想定されています。

それでは、この職務執行期間と事前確定届出給与がどう関係してくるのかをご説明したいと思います。

なぜ役員給与の損金算入には制限が多いのか?

今更ですが、役員給与の損金算入に制限が多い理由はなんでしょうか?

答えはシンプルです。非上場の中小企業等であれば、株主=代表取締役であることが多く、実質的に自分の報酬を自分で決めることが可能となり、不当な利益操作が可能となってしまうためです。

つまり、役員としての立場を利用した不当な租税回避を防止するため、事前に取り決めた内容に従って支給される給与以外は法人の損金として認めない、という趣旨に基づき設けられた規定となります。

そのため、法人税法上は、役員に対して支給する給与は、原則として損金として認めないが、「一定の要件に基づき事前に支給することを取り決めた」給与については損金として認めても良い、という構成になっています。

この「一定の要件」とは、原則として以下の通りです。
 ①定期同額給与(原則として毎月同額の給与を支給するような場合)←今回は論点ではないため詳細は省略
 ②事前確定届出給与←今回の論点はこれ
 ③業績連動給与(原則として上場会社等の非同族会社が対象)←今回は論点ではないため詳細は省略

ここで、問題になるのが、過去の職務執行期間に対して事前確定届出給与の支給とすることが可能かどうか?という点です。

事前確定届出給与と職務執行期間の関係

結論から申し上げると、過去の職務執行期間に対して支給する事前確定届出給与の損金算入は認められません。

なぜなら、役員給与は原則として、事前に決めた内容以外の役員給与の支給は認められない構成になっているからです。
そして、ここでいう「事前に」という意味ですが、前述の職務執行開始の日が基準になります。

つまり、前述の「その職務につき」とは、「これから行う職務」が対象となる、とお考え頂ければご理解しやすいように思います。

このことから、事前に届出をすれば全て法人の損金に出来る、という制度ではないということがご理解頂けると思いますが、文面だけを追っていくと眠くなってきてしまいますので、具体的な事例を見ていきたいと思います。
なお、参考までに国税庁が役員給与に関するQ&Aを公表しておりますので、ご興味がある方はご参照ください。
国税庁:役員給与に関するQ&A

事例

A社には、取締役Xと取締役Yの2名が役員として選任されています。
A社の事業年度と各取締役の職務執行期間(=選任期間)は以下の通りです。

<事業年度と職務執行期間>
 A社の事業年度:x1年4月1日~x2年3月31日
 定時株主総会の開催日:毎年6月25日
 取締役X:x0年6月25日~x1年6月25日(x1年6月25日で退任)
 取締役Y:x1年6月25日~x2年6月25日(x1年6月25日に選任)

ここで、x2年6月25日時点で取締役であった者を対象にx2年9月30日付で、それぞれ金銭100万円の臨時の役員給与を支給する旨の決議をx2年6月25日の定時株主総会で行い、x2年7月25日までに所轄税務署へ事前確定届出給与の届出書を提出し、x2年9月30日に取締役2名(取締役であった者を含む)に届出通りの金銭を支給したものとします。

極端な事例ですが、取締役X及びYそれぞれを見ていきたいと思います。

(1)取締役X

Xの職務執行期間は、x0年6月25日から1年間であり、支給対象となる役員給与は、同期間に対応したものでなければなりません。
この点、Xに対して支給する100万円の賞与は、職務執行期間終了の日に決められている、ということはお分かり頂けると思います。

したがいまして、取締役Xに対して支給する100万円を事前確定届出給与とすることはおかしい(確定しているのは事後)、と理解頂けると思います。
ただし、Xに対する100万円を退職慰労金として支給する場合には、法令上の取扱いが異なりますので、損金算入が認められる余地がある点は念のため申し上げておきます。今回の焦点はあくまで「事前確定届出給与」として損金算入が認められるか?という観点で検討しています。

(2)取締役Y

Yの職務執行期間は、x1年6月25日から1年間であり、支給対象となる役員給与は、Xと同様に同期間に対応したものでなければなりません。
この点、Yに対して支給する100万円の賞与は、職務執行期間開始の日に決められている、ということがお分かり頂けると思います。

したがいまして、取締役Yに対して支給する100万円は、所定の要件と満たしていれば、事前確定届出給与として損金算入することは可能、と理解頂けると思います。

なお、本事例は選任期間が1年であり、シンプルで分かり易くなっておりますが、これは選任期間が2年や10年になっても同じ結論になります。

事前確定届出給与の否認あるある

当局から事前確定届出給与の否認が検討されるケースを2つほどご紹介します。

(1)役員賞与引当金が計上されている

役員賞与引当金は、原則として、決算日後に開催される定時株主総会において、役員賞与の支給決議が行われることが見込まれる場合に計上される引当金(見積り)をいいます。

この引当金が計上されている場合、事前確定届出給与の支給決議日より前に引当計上されているケース(例えば、決算賞与を支給するようなケース)では、過去の職務執行期間に対する役員給与とみなされる可能性が高く、当局から否認される可能性が高まりますので、ご注意ください。

(2)退任した役員に支給されている

あまり想定されませんが、退任予定の役員が事前確定届出給与の支給対象者となっている場合で、退任後に給与が支給されている場合には、過去の職務執行に対する給与に該当しないかどうかを当局側から詳細に見られる可能性が高く、過去の職務執行に対する対価であることを立証するメモや議事録等が保管されていた場合には、当局から否認される可能性が高まりますので、ご注意ください。
なお、この場合には、事前確定届出給与ではなく、役員退職慰労金の支給を検討すべきです。原則として、株主総会決議が必要である点は同じですが、所轄税務署への届出がない点が事前確定届出給与と異なり、支給金額や支給時期はある程度柔軟に検討することが可能となります。

不相当に高額な役員給与は否認される

ここまでは、原則的な規定に基づく役員給与の損金算入の規定をご紹介させて頂きました。
ここでもう1つ役員報酬の設計を検討するうえで、注意すべき規定があります。

それは、不相当に高額な部分の役員給与は損金算入を認めない、という規定です(法法34②)。
「はぁ?どういうことだってばよ?」というお声が聞こえてきそうですのでご説明させて頂きます。

まず、一定の要件を満たす役員給与に限り、損金算入が認められている点は既に申し上げた通りですが、その要件を満たしていても適正額を超える部分の役員給与の損金算入は認めない、という規定があります。この適正額を超える部分の役員給与を法令上は「不相当に高額な」役員給与と表現しています。
次に、不相当に高額かどうかの判断基準ですが、法令上は2つの基準が設けられています。

<不相当に高額かどうかの判断基準>※法令70①一より抜粋・編集
 ①役員の職務内容、収益及びその使用人給与の支給状況、類似法人の役員給与の支給状況等に照らして相当か(いわゆる実質基準)
 ②定款又は株主総会等の決議により決定した役員報酬の限度額等の範囲内か(いわゆる形式基準)

上記の基準のうち、②は比較的分かり易いと思います(要は自分たちで決めた枠内に収まっていればOKという規定です)。

一番厄介なのは、上記①の規定です。

「不相当に高額か」どうかの判断基準が示されているものの、いくらまでなら損金算入が認められるかが不明確となっています。
さらに、後半部分の「類似法人の役員給与の支給状況等と比較して相当かどうか?」という判断基準も設けられていることから、高額な役員報酬を設定している場合、最終的に当局から否認される可能性が常に存在し続けることになります。

この規定に対しての完全な対策はなく、焼け石に水状態ですが、「不相当に高額かどうか」を判断する際の参考となる視点をご紹介したいと思います。

(1)職務内容

まずは、検討の対象となる役員の職務は何で、法人の収益状況との関係がどうなっているか、という観点で考えていく必要があります。稀なケースかも知れませんが、特定の役員1名が法人全体の収益獲得や特定の部門の収益獲得に直接貢献しているような場合には、説明は比較的容易かも知れません。

(2)勤務実態があるか

不相当に高額かどうかを検討する以前の問題ですが、勤務実態が全くない役員に対して役員報酬を支給している場合、当たり前ですが全額が否認される可能性が高いと考えられます。

(3)非常勤役員

例えば、非常勤役員にも関わらず、常勤役員並みの役員給与の支給を受けているケースや、他の非常勤役員がいる場合に、明確な理由がないにも関わらず、他の非常勤役員よりも高額な役員給与の支給を受けているケース、などは支給額の一部が否認される可能性は高いと考えられます。
ただ、上記は当然に勤務実態がある場合を想定しており、勤務実態がない場合には、(2)と同様に全額が否認される可能性が高いと考えられますので、この点はご注意ください。

とはいっても、前述の(2)や(3)に該当する場合を除き、この規定が直接役員給与の否認に繋がる可能性は、過去の裁決・判例を見た限りではそれほど高くはないと考えられます。

それでは、実務上、問題となるのはどのようなケースでしょうか?
それは、役員退職慰労金の支給があったときが最も論点になりますが、今回の論点はあくまで「役員賞与支給時の注意点」ですので、詳細はご説明は割愛させて頂きます。
(肩透かしをくらってしまった方は申し訳ありません)

なお、役員給与を検討するうえで、「自分のところは大丈夫」、「知り合いの社長に聞いたけど大丈夫と言っていた」、などといった甘い考えを抱いている方に限って、当局から指摘を受けたりします。
また、今回の調査を切り抜けられたとしても、それが次回も是認される保証はどこにもありません。役員給与ではありませんが、実際にあった事例で、とある地方の税務調査で前任の担当調査官(前回の調査)と後任の調査官(次回の調査)で正反対の指摘を行っていた、という事例を見たことがあります(私自身は調査の立会を行っていません)。
会社としては、前回の調査の指摘を受けて指摘通りの処理を継続していたところ、次回の調査で「前回の指摘は誤っていたため、今回の指摘に合わせてほしい」、と言われて納得がいかないまでも大人しく従ったという内容です。
これは非常に珍しい事例で、本来あるべきではありませんが、当局からの指摘であっても誤っている(税務判断が異なる)可能性もあり得ます。

「じゃあどうすりゃいいんだ!?」といったお声が聞こえてきそうですが、これは常に会社自身に意識して頂くしかないというのが本音です。前述のとおり、完全な対策が困難である以上、「不相当に高額と言われるのは嫌だから保守的に低めに設定する」、「調査で指摘を受けてもいいから自由に設定する」はそれぞれ両極端ですが、いずれも考えとしてはありだと思います。

重要なのは、「常に税務調査を意識すること」と「役員給与の税制上の取扱いを正しく理解する」ことだと思います。

社会保険料の負担(参考)

事前確定届出給与とは直接関係ありませんが、今回ご紹介した事前確定届出給与も基本的には「賞与※年3回以下の支給が対象」となりますので、支給後5日以内に管轄の年金事務所へ所定の届出を行う必要がありますので、お忘れないようご注意ください。
具体的な手続の内容が知りたいという方は、以下の日本年金機構のホームページをご参照ください。
日本年金機構:賞与を支給した場合の手続

最後に

いかがでしたか?
事例としてはよくある部類に入る気もしますが、意外と知られていないこともあったかと思います。

特に今回の内容は、同業の税理士でも勘違いされている方がたまにいらっしゃる論点でもあり、前職時代に経験した税務デューデリジェンスの検討項目にもよく挙がっていた項目ですので、今回ご紹介させて頂きました。

なお、ご紹介する会計処理や税務処理をはじめとした法令・基準等の解釈については、ご紹介する事例を前提とした筆者の個人的な見解であり、ご紹介した会計処理・税務処理の適用にあたっては閲覧者ご自身のご判断にてお願いいたします。実際の取引の適用にあたっての責任は負い兼ねますので、必ず会計監査人・顧問税理士へのご確認を推奨いたします。

また、当ホームページの情報は閲覧者の税務処理を拘束するものではなく、将来の会計基準等や税制改正などにより適用関係(結論)が変更される可能性がありますので、あくまでも事例をご紹介した時点の取扱いである点は何卒ご留意ください。

略称:

法人税法:法法
法人税法施行令:法令

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