連帯保証人が土地等を売却した際の注意点

そもそも保証人って?

保証人の定義は民法446条第1項に定めがあり、「保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う」とされています。

例えば、借金などをした時に返済義務を負っている者が主たる債務者となり、この返済義務が履行されない( = 借金が返済されない)時に主たる債務者の代わりに返済義務( = 責任)を負う( = 肩代わりをする)者が保証人となります。

「借金をする時の保証人になってほしい」、という話しの中で登場する保証人がこれにあたります。

今回は、この「保証人」が土地と借金(自分が連帯保証人)を相続した場合に、その土地を譲渡して借金を返済した場合に押さえておくべきポイントをご紹介させて頂きます。

なお、保証人の中でも連帯保証人となる場合は単純保証と取扱いが少し異なってきますが、今回ご紹介する事例とは直接関係ありませんので、詳細なご説明は省略させて頂きます。

押さえておくべきポイント

細かい取扱いを見ていく前に押さえておくべきポイントをご紹介します。
ただ、今回の場合は民法上の用語が出て来たり、最初にご覧頂いてもあまりピンと来ないかも知れませんので、「はにゃ?」という方は順を追ってご覧頂いた方がよろしいかも知れません。

①保証債務の履行に伴う求償権を行使できなくなったといえるか
②保証人が主たる債務者の相続人となっていないか

以上、2点が重要なポイントです。
詳細は順を追ってご説明します。

民法上の取扱い

今回ご紹介する所得税法の特例制度を適用できるかどうかを検討する前に民法上の取扱いを理解しておくことが重要です。

まず、保証人が主たる債務者に代わって弁済その他自己の財産をもって債務を消滅させる行為をしたときは、その保証人は主たる債務者に対し、そのために支出した財産の額の求償権(債務消滅額が上限)を有するとされています(民法第459条第1項)。

この「求償権」という言葉が聞きなれない方もいらっしゃると思いますので簡単にご説明しますと、「保証人が肩代わりした債務相当額を主たる債務者に請求出来る権利」とご理解頂いて差支えありません。

ざっくり言うと、「肩代わりしてあげたんだからその分を返してほしい」という権利です。

もう1つ今回の事例に関係してくる民法上の規定があります。
それは、債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する(民法第520条)。
という債権混同に関する規定です。

例えば、自分が他人にお金を貸した場合、それは金銭債権として「貸したお金を返してほしい」と請求できる権利となります。
その後、貸したお金を返してもらわないまま、お金を貸した人から同額のお金を借りた場合には、「借りたお金を返す」義務が債務として発生することになります。
この貸したお金を返してもらえる権利( = 債権)とお金を返す義務( = 債務)の両方が自分にある場合、貸したお金を返してもらえる権利( = 債権)は消滅する、という規定が債権混同という規定になります。

通常は関係のない規定ですが、今回の事例のように自分が連帯保証人になっている債務を主たる債務者から相続する場合には、関係してくる規定となりますので、こちらも併せて押さえておく必要があります。

所得税法上の取扱い

保証人が借金等の債務を肩代わりをするにあたって、土地等を譲渡した場合で法令上の要件を満たす場合、所得税法上は「資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の特例」という制度(以下、「特例制度」)を適用することが出来ます(所得税法第64条第2項)。

これは、本来は課税をし所得税を徴収するところ、売買により得た対価は保証債務を履行するために充当し、求償権の行使ができなくなった上に、さらに税金まで負担するというのは酷なことになりますので、その救済措置として規定されています。

つまり、「他人の借金を肩代わりした分が返ってこない上に税金まで払えなんて無茶苦茶言うな!」という声に応えた制度ということになります。

ただ、便利そうな制度ですが当然のことながら適用するためには以下の要件を全て満たす必要があります。

<適用要件>
 ①弁済する債務が保証債務であること
 ②保証債務を履行するために土地等一定の資産を譲渡していること
 ③保証債務の履行に伴う求償権の全部または一部の行使ができなくなったこと

この中で特に注意すべきなのが、③の求償権の全部または一部の行使が「できなくなった」こと、の要件です。
つまり、保証契約の当初から求償権の行使が見込めないような場合には、保証債務の履行のために資産を譲渡しても前述の特例制度を適用することは出来ませんのでご注意ください。

また、この制度を適用した場合、前述の「行使できなくなった求償権の額」と「特例制度適用前の譲渡所得金額( = 売買代金-土地等の取得費-譲渡費用)」のいずれか低い金額を上限として課税の免除を受けることが可能となります。

なお、当然ですが、該当の資産を譲渡した結果、損失が生じている場合には、そもそも「所得」が生じることはありませんので、この規定の適用はありません。

事例

A(Bの長男)はBが亡くなったことを受けて、土地とC(A・Bとは血縁関係のない第三者)に対する借入金( = 借金)を相続することになった。AはBの生前からBの借金の連帯保証人となっていた。
相続後、相続した土地をD(A、B、Cそれぞれと無関係)に譲渡し、譲渡代金を借金の返済に充てた。
なお、Aの借金はBから相続した借金以外になく、Aが連帯保証人となった当時はBに返済余力があった。

当てはめ

前述の特例制度の適用が可能かどうか当てはめていきたいと思います。

(1)保証債務に該当するか
まず、今回土地を譲渡して弁済した借金が「保証債務」に該当するかどうかを検討していきます。
AはBの生前よりBの借金の連帯保証人となっていたことから、今回弁済した借金はAにとって保証債務に該当すると考えられます。

(2)保証債務を履行するために土地等一定の資産を譲渡しているか
次に、今回の土地の譲渡が「保証債務を履行するため」といえるかどうかを検討していきます。
Aが連帯保証人としての地位に基づき、保証債務(借金)を弁済するために今回の土地を譲渡している場合、保証債務を履行するために資産( = 土地)を譲渡しているといえますので、保証債務を履行するために土地等の資産を譲渡していると考えられます。

(3)保証債務の履行に伴う求償権の全部または一部の行使ができなくなったか
前述の通り、保証債務を履行(今回の事例では借金の弁済)した場合、保証人は主たる債務者に対して債務の弁済相当額を請求する権利( = 求償権)を有することになるのが原則です。
ただ、今回の事例では、AはBの借金の連帯保証人であると同時にBから借金を相続していますので、Aは主たる債務者としての地位も(重複して)有していることになります。
つまり、Aは今回弁済した借金の主たる債務者であると同時に連帯保証人でもある、ということです(ややこしいですね。。)。
この状況でBから相続した借金を弁済した場合、主たる債務者としての自分の借金を連帯保証人としての自分が弁済したことになり、自分に対する求償権が発生することになりますが、このような場合には前述した通り債権混同により求償権が消滅することになります。
さらに、この「求償権が消滅する」というのは「求償権を行使できなくなったとき」には該当しない(当然に消滅する)ため、保証債務の履行に伴う求償権の全部または一部の行使ができなくなったときに該当しないと考えられます。
つまり、今回の土地の譲渡代金を借入金の返済に充てた、というのは、単に自分の借金を返済するために土地を売却した、ということと同じことになりますので、今回ご紹介した特例制度の適用は出来ないものと考えられます。

求償権の行使ができなくなったとき(参考)

前述の特例制度適用するための「求償権が行使できなくなったとき」とは、どのようなケースが該当するかを参考までにご紹介します。一応、以下の所得税基本通達がありますので、ご興味がある方はリンク先をご覧頂ければと思います。
国税庁:所得税基本通達51-11
国税庁:所得税基本通達64-1

細かい規定上の要件はさておき、所得税基本通達の規定を眺めてもあまりピンと来ないかも知れませんので要点をまとめると、基本的には主たる債務者が破産又は解散(法人の場合)に至ってるような場合には、「求償権の行使ができなくなったとき」と認められるものと考えられます。

ただ、問題となるのは「どこまでの金額が」行使が出来なくなった求償権の額と判断して良いか?という観点です。
例えば、前述の事例に基づく譲渡所得の金額が5,000万円(特例適用前)とした場合に、5,000万円全額がなかったものとされるのか、それとも3,000万円なのか、はたまたゼロなのか、ということです。

結論だけ申し上げますと、個別事案ごとに取扱いが異なってきますので、○○の場合には××、のように機械的に判断することは難しく、詳細な事実関係(背景、相手方の財務状況、実質的に求償権の行使が不可能な環境にあるか、など)を把握していくことが重要となります。

最後に

いかがでしたか?
今回は珍しい事例をご紹介させて頂きました。
特に、今回ご紹介した特例制度の適用可否は、納税者の懐事情に大きな影響を及ぼすものですので、慎重に適用可否を検討した結果を事例という形で取りまとめてみました。

納税者の立場からは税金を払わないで済むなら払いたくない、というお気持ちも十分理解できますが、税法に詳しくない方からの無責任な助言(という名の悪魔の囁き)を受けて特例制度を適用出来ない状況にもかかわらず、適用して申告してしまった場合、過少申告加算税等の附帯税( = 罰金の税金版)を追加で負担するようなことにもなりかねませんので、税金のことは税理士等の専門家へ依頼することをお勧めします。

なお、ご紹介する会計処理や税務処理をはじめとした法令・基準等の解釈については、ご紹介する事例を前提とした筆者の個人的な見解であり、ご紹介した会計処理・税務処理の適用にあたっては閲覧者ご自身のご判断にてお願いいたします。実際の取引の適用にあたっての責任は負い兼ねますので、必ず会計監査人・顧問税理士へのご確認を推奨いたします。

また、当ホームページの情報は閲覧者の税務処理を拘束するものではなく、将来の会計基準等や税制改正などにより適用関係(結論)が変更される可能性がありますので、あくまでも事例をご紹介した時点の取扱いである点は何卒ご留意ください。

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