新年のご挨拶
新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
2022年はどのような年になるか分かりませんが、本年も突き抜けて参る所存でございます。
さて、新年最初は「社宅」に関する取扱いを取り上げてみたいと思います。
そもそも社宅って何?
社宅とは、一般的に役員または従業員の福利厚生の一環として会社が用意した住宅の総称です。
この会社が用意した住宅のうち、会社が他の所有者から借りた住宅がいわゆる借上げ社宅と呼ばれているものになります。
・会社の節税対策になるって聞いたけどほんと?
・社宅を利用すると安く住めるって聞いたけどほんと?
・社宅を利用しても給与課税を受けないって聞いたけどほんと?
などなどネット記事などを見ると社宅に関する様々な情報があふれていますが実際のところどうなんでしょう?
そこで、今回は法人が自社役員のために借上げた社宅を利用する場合に押さえておくべきポイントをご紹介していきたいと思います。
内容としては少し地味な部類に入りますが、意外と知られていない情報もあったりしますので、社宅の利用を検討されている方は是非ご覧頂ければと思います。
押さえておくべきポイント
各論に入る前に押さえておくべきポイントを最初にご紹介します。
ここでのポイントを頭の片隅に置きながらご覧頂けると、ご覧頂いた後に「なるほど!」と思って頂けるものと思います。
①法人名義で賃貸借契約を締結すること(個人名義ではダメ)
②所基通で定められている「通常の賃貸料」を計算し徴収すること
③「通常の賃貸料」を徴収しない場合には給与課税の対象に含めること
以上、3点が重要なポイントです。
詳細は順を追ってご説明いたします。
社宅に関する原則的な取扱い
法人が住宅(戸建て・マンション等)を自社の役員に貸し付ける目的で借上げた場合で、その借上げ社宅を使用する役員から通常の賃料相当額を徴収しない場合には、原則として当該役員または従業員に対する経済的利益の供与として現物給与(給与課税の対象)に該当することになります(所法第36条、所令84の2※)。
ただし、「通常の賃貸料」を徴収しているなど一定の場合には給与課税の対象から除外されています(所基通36-15、36-40~41)。
※法律条文の略称は末尾に記載しておりますので、必要に応じてご参照ください。
それでは、給与課税を回避するために徴収すべき「通常の賃貸料」は、どのようにして算定されるかを事例を交えて見ていきたいと思います。
通常の賃貸料の算定方法
役員に貸与する社宅が豪華社宅に該当せず、かつ、小規模な住宅※である場合のいわゆる「通常の賃貸料」の計算方法は、以下の計算式により算定された額とされています(所基通36-41)。
計算式:通常の賃貸料 = ① + ② + ③
①その年度の家屋の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
②12円 × 当該家屋の総床面積(㎡) ÷ 3.3(㎡)
③その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
※小規模なものかどうかの判定は、原則としてその貸与した家屋の床面積が132㎡(木造家屋以外の家屋については99㎡)以下であるかどうかにより判定されます。ご興味がある方は以下の国税庁のホームページをご参照ください。
国税庁:No.2600 役員に社宅などを貸したとき
社宅が居住用マンションの一室であるなど1棟の建物の一部である場合又はその貸与した敷地が1筆の土地の一部である場合のように、固定資産税の課税標準額がその貸与した家屋又は敷地以外の部分を含めて決定されている場合には、所基通36-40~41を基礎として求めた通常の賃貸料の額をその建物又は土地の状況に応じて合理的にあん分するなどして対応する通常の賃貸料の額を計算することとされています(所基通36-42)。
また、国税庁の質疑応答事例を確認したところ、②の計算で使用する当該家屋の総床面積には共用部分を含めるとありますので、専有面積だけではなく共用部分の面積を含めて計算することになりますのでこの点はご注意ください。
国税庁質疑応答事例:役員に貸与したマンションの共用部分の取扱い
なお、小規模住宅に該当しない場合の「通常の賃貸料」の計算方法は、今回の検討対象にしておりませんので、もし気になる方は以下の所得税基本通達36-40をご参照頂ければと思います(計算式が変わります)。
参考:所得税基本通達36条関係
事例
A社は、自宅と業務(A社に関する業務に限る)利用を兼ねた住宅を自社役員であるXに貸付ける目的で、不動産仲介会社であるB社を通じてY(個人)所有の居住用マンションの一室(専有面積:70㎡、共用部分の面積:10㎡)を借受けるため、賃貸借契約(月額賃料:75,000円)を締結しました。
A社はXから社宅の使用料として徴収すべき「通常の賃貸料」を算定するために、B社を通じてYが有している居住用マンションに係る固定資産税の課税明細書等のコピーの交付の要望を伝えたところ、断られてしまいました。
このような場合に「通常の賃貸料」をどのようにして算定すべきでしょうか?
通常の賃貸料の計算
(1)固定資産税の課税標準額に関する情報の取得
本事例は、前述の「通常の賃貸料」を計算する際に必要な固定資産税に関する情報を貸手から直接入手できない場合に該当します。このような場合、どのようにして固定資産税の課税標準額の情報を入手するかが問題となります。
本件のように貸主から固定資産税課税標準額に関する情報を直接入手できない場合には、「賃借権その他の使用又は収益を目的とする権利を有する者(ざっくり言うと社宅の契約者(=会社)と考えて頂いて差支えありません)」として、当該マンションの所在地を管轄する市町村(東京23区は都税事務所)に対して固定資産課税台帳の閲覧申請を行うことにより、固定資産税の課税標準額を確認することができます。
また、その登録事項について証明書を請求することも可能です。ただし、課税台帳等の閲覧・交付申請にあたっては当該物件の賃貸借契約書(法人名義)や写真付きの身分証明書の提示が求められることがありますので、閲覧・交付申請前に必ず管轄の市町村等に確認しておくことをお勧めします。
(2)通常の賃貸料の計算
次に、(1) の証明書を入手できた後は前述の計算式に当てはめていきます。
証明書に記載されていた家屋・敷地に関する情報は以下の通りとします 。
項目 | 家屋 | 敷地 |
種類 | - | 宅地 |
固定資産税評価額 | 5億円 | 3億円 |
固定資産税課税標準額 | 5億円 | 5千万円 |
地積または面積 | 10,000㎡ | 5,000㎡ |
<計算結果>
①家屋の固定資産税課税標準額 ( 5億円 × 80㎡ ( = 専有面積70㎡ + 共用部分の面積10㎡ ) ÷ 10,000㎡ ) × 0.2% = 8,000円
②12円 × 家屋の総床面積80㎡ ÷ 3.3㎡ ≒ 291円
③敷地の固定資産税評価額 5千万円 × 80㎡ ÷ 5,000㎡ × 0.22% = 1,760円
① + ② + ③ ≒ 10,051円
本事例の社宅が居住用としてのみ利用する場合、上記の計算結果に基づく通常の賃貸料以上の金額を会社が徴収していれば、給与課税の対象から除外することが可能となります。
ただ、事例冒頭に記載の通り、本事例では会社の業務利用も兼ねていますので、このような場合には通常の方法により計算された賃貸料の70%相当額以上の金額を通常の賃貸料とする特例計算が認められています(所基通36-43)。
そのため、本事例の場合の通常の賃貸料は以下のように計算されます。
通常の方法により計算された賃貸料10,051円 × 70% ≒ 7,036円
したがいまして、本事例の場合7,036円以上の金額を通常の賃貸料として徴収していれば給与課税の対象から除外することが可能となります。
このように、上記の計算により算定された通常の賃貸料7,036円と会社が貸主に支払う賃料75,000円を比較すると、社宅の利用者負担は1割程度に抑えられており、社宅の利用者負担が軽減出来ていることが分かります。
注意点
注意しなければいけない点として、冒頭に申し上げた通り、①法人名義で賃貸借契約を締結すること、②一定の算式により計算された通常の賃貸料を会社が使用者から収受すること、③通常の賃貸料を収受しない場合には給与課税の対象に含める(源泉所得税の計算に含める)こと、以上3点が重要な点となります。
また、上記3点に加えて、本事例は会社の業務利用を兼ねた社宅を前提としておりますが、会社の業務利用がないにも関わらず業務利用があるように装う場合、租税回避行為とみなされる可能性が高く、万が一租税回避行為とみなされた場合には経済的な利益の額(役員給与)とされた部分の損金算入が認められない可能性があります。
さらに、源泉所得税の徴収もれを原因とした不納付加算税等(罰金の税金版)が課されることもありますので、実際の適用関係については税理士等の専門家へ相談することをお勧めします。
そもそも固定資産税の課税標準額って何?
ところで、
そもそも固定資産税の課税標準額って何?
と思った方もいらっしゃるかと思いますので、固定資産税の課税標準額とは何かについて説明しておきたいと思います。
まず、固定資産税の課税標準額の説明をする前に、固定資産税の仕組みについて簡単にご説明したいと思います。
固定資産税は、その年1月1日時点で土地または家屋等の所有者に課される税金で市町村へ納付する税金です。
納付する税金の金額は管轄の市町村が決定し、各所有者へ通知することになっています。
この固定資産税を計算するときに基準となる価格を「固定資産税の課税標準額」といいます。
間違えやすい例として、似たような用語で「固定資産税評価額」というものがありますが、これは固定資産税の課税標準額を計算する際の基準となる価格( = 固定資産税を計算する際の時価)をいい、土地の場合、いわゆる住宅用地に対する課税標準の特例適用前の価格となります(地法第349条第1項)。
つまり、住宅用地であれば前述の固定資産税評価額から一定の割合を減額した後の金額が固定資産税の課税標準額となります(地法第349条の3の2)ので、十分にご注意ください。
この点について、細かい法律上の条文の説明をしても良いのですが、内容としてはあまり面白くないと思いますので、今回は割愛させて頂きます。
なお、相模原市が公表している「土地課税台帳記載事項証明書の見方」というものが分かり易かったので、参考までにご紹介いたします。ご興味がある方はご覧ください。
相模原市:土地課税台帳記載事項証明書の見方
法人税の取扱い
忘れてはいけないのが法人が徴収する賃貸料を法人税の計算上どのように取扱うべきかです。
この点、社宅の使用の対価として法人が収受する賃貸料相当額は当該法人の収益の額として処理することになります。つまり、法人と貸主との間で締結した賃貸借契約と法人と役員との間で行う社宅の貸与は別々の取引として処理することになります。
意外と法人が貸主に支払う対象物件の賃料相当額の一部を役員が負担している、といった勘違いをしてしまうことがありますのでこの点はご注意ください。
消費税の取扱い
もう一つ忘れてはいけないのが消費税の取扱いです。居住用住宅の貸付けは消費税の計算上、原則として非課税売上に該当しますので消費税の授受は必要なく、仕入税額控除の計算をする際に使用する課税売上割合の計算の基礎となる非課税売上に含めることをお忘れないようご注意ください。
国税庁:No.6201 非課税となる取引
最後に
いかがでしたか?
この文章をお読み頂いているということは最後まで読んで頂けているものと思います。
ご存じの方は「なんだ、知っていることばかりで全然つまらん」と思ったかもしれませんし、ご存じなかった方は「社宅の利用を検討してみよう」、はたまた「何を言っているのかさっぱり分からん」と思った方もいらっしゃるかもしれません。
私が実際に前述の計算式に基づき通常の賃貸料の算定をしてみて感じたことは、「えっ!?貸主に支払う賃料と比較してここまで低くなるの!?計算の仕方間違ってないかな!?」でした。
というのも、通常の賃貸料の計算の基礎となっている「固定資産税の課税標準額」が実勢価格等の一般的な時価と比較して価格が低く算定されている影響と考えられます。
つまり、一般的な時価の基準とされている国土交通省等が公表する公示地価や実勢価格等を100とした場合に、相続税の財産評価に使用する路線価は80(8割)、固定資産税を決めるための固定資産税評価額は70(7割)程度と言われています。
そのため、上記の関係性を表すと、「時価>路線価>固定資産税評価額≧固定資産税の課税標準額」ということになりますので、「絶対社宅として利用した方が得じゃん!」と思われてしまうかも知れませんが、何でもかんでも社宅として利用が出来るかというとそうでもありませんので、実際の適用関係については十分な注意が必要な点は前述の通りです。
なお、ご紹介する会計処理や税務処理をはじめとした法令・基準等の解釈については、ご紹介する事例を前提とした筆者の個人的な見解であり、ご紹介した会計処理・税務処理の適用にあたっては閲覧者ご自身のご判断にてお願いいたします。実際の取引の適用にあたっての責任は負い兼ねますので、必ず会計監査人・顧問税理士へのご確認を推奨いたします。
また、当ホームページの情報は閲覧者の税務処理を拘束するものではなく、将来の会計基準等や税制改正などにより適用関係(結論)が変更される可能性がありますので、あくまでも事例をご紹介した時点の取扱いである点は何卒ご留意ください。
略称
所得税法:所法
所得税法施行令:所令
所得税基本通達:所基通
地方税法:地法